法人向け企画―聴覚や発話に困難のある方にも電話という選択肢を

「手話リンク」自治体に浸透=住民サービス充実に向け

対象: すべての人
掲載日 : 2025年12月04日

「手話リンク」自治体に浸透

音声電話の利用が難しい住民がストレスなく手話で通話できる「手話リンク」が自治体に浸透し始めた。自治体の状況によって活用の方法は違うが、手話リンクに着眼した理由について、異口同音に「住民サービスが充実し、コストもかからない」点を挙げる。神奈川県藤沢市と北海道北見市を取り上げ、早々と導入の判断をした動機や展開の方法などを探った。

手話リンクは選択肢の一つ―藤沢市

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 藤沢市は、神奈川県の中央南部にあり、江の島などの有名な観光スポットも抱える。東京都心や横浜市からのアクセスが良く、人口44万人を超えるベッドタウンだ。

 市に問い合わせたいことがあれば、代表電話やメール、チャットを使って「コンタクトセンター」に聞くのが一般的な方法。必要であれば担当課につないでくれる。本庁舎以外にも市民センターが13カ所設けられており、身近な場所で手続きできることも多い。

 手話を第一言語にしている住民向けに、本庁舎の障がい者支援課に会計年度任用職員の手話通訳者を3人配置し、窓口などで柔軟に対応できるよう体制を整えている。このほか、窓口業務の部署で職員が筆談で受け答えできるような態勢も取っている。

 加えて、9月1日から手話でコミュニケーションしたい住民が電話で相談や問い合わせができるように、手話リンクを導入した。例えば、手話リンクを使えば、来庁が難しい場合の問い合わせはもちろん、事前に申請の内容や用意する書類などを知ることができ、スムーズに手続きできたり、近くの市民センターや郵送などで用事を済ませられたりする。同課参事兼課長の林優子氏は「文字ではなく、手話を望んでいる方が手話で問い合わせができる。実際に必要な人が利用するときの選択肢の一つとして(自治体が)提供できる。それが一番のメリットだ」と手話リンクを選んだ理由を説明する。

予算立てしやすい

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 「直営で同じ仕組みをつくるなら、ものすごい金額がかかる」(林氏)が、手話リンクであれば通話料の負担だけで済むため「安価で利用できるので予算立てしやすかった」(同)という。手話リンクに限った事業費を計上するのではなく、手話通訳者の派遣事業などの経費の中に入れ込んだ。予算面など庁内調整もスムーズに進んだようだ。

 市役所のホームページ(HP)のサイドバーやフッター部分に、代表電話から手話リンクにつながるアイコンを目立つように置いた。これに加え、障がい者支援課も含め、住民票やマイナンバーカードへの対応や、税金などを扱う窓口関係の、合わせて22部署のページにもそれぞれ手話リンクを設置。市民からの問い合わせが直接来てもいいように、これらの部署の直通番号につながるようにしている。

 手話リンクにつながるアイコンには、電話リレーサービスのロゴと一緒に「手話で電話できます」という文言を付け加えた。手話リンクの使い方を紹介するページには、実際に電話をするまでの手順を四つのステップに分けて丁寧に案内している。同課で現場の調整役を務めた課長補佐の石島祐子氏は、HPは「(趣旨を)一番伝えられる場所だと思い、分かりやすくした」と話し「コミュニケーションツールの一つとして気軽に使ってほしい。多くの人に利用してもらいたい」と願っている。

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藤沢市HP「手話リンクの利用方法」より抜粋
https://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/shogaifu/shuwarinku.html

専任手話通訳者の負担軽減もー北見市

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 北見市は北海道東部に位置し、道内で最も面積が広い自治体だ。寒暖差が大きく、大雪に見舞われることもある。最近は窓口改革に積極的で「行かない窓口」の取り組みも進められている。手話リンクについては、7月30日から使えるようにした。

 現在、会計年度任用職員の専任手話通訳者として本庁舎に2人配置している。また、音声電話の利用が難しい住民とのコミュニケーション手段は、ファクスやメール、そして新たに今年度から手話通訳者に直接連絡できるLINEも導入し、選択肢を増やしてきた。障がい福祉課長の谷口崇氏によると、手話であればスムーズにコミュニケーションが取れる住民もいるため「用事があると、本庁舎まで来てもらい、手話通訳者が他の窓口に案内して必要な用事を済ませる対応をしていた」。

 このほか、庁外の手話通訳については「専任手話通訳者に、市内で登録されている9人の手話奉仕員と利用者との(派遣)コーディネート役を担ってもらっている」(障がい福祉課総務係の星友騎氏)

 さらに、専任の手話通訳者には携帯電話が貸与されており、閉庁後も聴覚障害者からの連絡に対応している。緊急の場合には、市の担当者に仲介することになる。いつどこで緊急の連絡が来るか分からない状況で余分な緊張を強いることになり、課題だった。それが、手話リンクを使えば、直接、市の職員につながるようになり、聴覚障害者も聞こえる人と同様の対応が可能になることで手話通訳者の負担も軽減される。

実用性、安価で可能性が広がる

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 HPのフッター部分に「手話で電話をする」というリンクを設置。代表電話につながり、そこから各課に渡される。 谷口氏は「電話番号を入力する必要もなく、(クリックする)ボタン一つで済むシンプルな仕組みで、実用性がある」と感じた。

 それだけでなく「市民が事前登録なしで利用できる形式であり、市としてもコストが非常に抑えられる面もあって(導入を)決めた」と振り返る。新たな費目を立てることなく、通訳者の携帯電話の通信費に手話リンクの通話料を組み込んでいる。

 谷口氏は「広い土地なので、(本庁舎に)来るのも大変。手話リンクも合理的配慮の一つだ」と説明。「市民だけでなく、市外から観光のことを聞くときなどにも使えるので案内したい」と付け加える。星氏は「電話番号を打ち込む必要もなく、利用するのは簡単。手話リンクでさらに(サービスの)可能性が広がった」と解説する。

 導入したばかりで普及させるのはこれから。谷口氏は「使ってみる機会を生み出さないと浸透していかない」と話しており、住民への周知の機会を増やしていく考えだ。

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